議会解散か辞職か――田久保市長の決断が未来を変える
伊東市政がかつてない緊張状態にあります。田久保市長に対する不信任決議が全会一致で可決され、市長は辞職か議会解散かという重大な選択を迫られています。
この対立は単なる学歴問題にとどまらず、市政の信頼性、議会との関係、そして市民の政治参加意識を揺るがす事態へと発展しました。
背景には、過去の市政スキャンダルや巨額の公共事業計画に対する市民の不信感があり、今回の混乱は「誰のための政治なのか」という根源的な問いを突きつけています。
果たして田久保市長はどの道を選ぶのか――その決断が伊東市の未来を大きく左右します。

市長と議会はなぜ対立するのか?
学歴詐称疑惑と説明責任の欠如
市長と議会の対立は、単なる形式的な問題ではなく、信頼と統治の根幹に関わる深刻な構造的対立です。発端は、田久保市長の学歴詐称疑惑でした。市長は「東洋大学卒」と公表していましたが、実際には卒業していなかったことが判明し、議会は百条委員会を設置して調査に乗り出しました。しかし、市長は卒業証書の提出を拒み、証人尋問でも一部証言を拒否、さらに虚偽の陳述を行ったと認定されます。この対応が、議会との信頼関係を決定的に損ないました。
市政混乱と市民への影響
議会側は、市政の停滞と市民への悪影響を懸念していました。学歴問題が発覚して以降、市政は混乱し、観光業や行政サービスへの影響が指摘され、市民からは辞職を求める署名が1万人を超える規模で集まりました。議会は「市政の信頼回復には不信任が不可欠」と判断し、全会一致で不信任決議を可決します。
市長の対応が対立を深めた
一方、市長は当初「7月中に辞職する」と発言したものの、その後方針を二転三転させ、最終的には辞職を拒否し議会解散を選ぶ姿勢を鮮明にしました。さらに、市長は次の市議選で自らを支持する候補を擁立する構想を打ち出し、議会との対立は「信頼回復」から「権力闘争」へと性質を変えていきます。
対立の本質
この対立の本質は、議会が「市政の安定と信頼回復」を求めるのに対し、市長は「辞職回避と政治的延命」を優先している点にあります。結果として、伊東市政は長期的な膠着状態に陥り、市民生活や行政運営に深刻な影響を及ぼしています。
田久保市長を支持する人の特徴
無党派層が圧倒的多数
出口調査によると、田久保市長に投票した有権者の6割以上が「支持政党なし」と回答。これは、彼女の勝利が特定政党の組織票ではなく、広範な市民の支持によって成り立ったことを示しています。
「市民派」志向の有権者
田久保市長は完全無所属で立候補し、自民・公明推薦の現職を破りました。「政党やしがらみに縛られない政治」を求める層、既存の政治に不満を持つ層が支持の中心です。
「しがらみのない政治」を求める層
田久保市長は完全無所属で立候補し、自民・公明推薦の現職を破ったことが象徴的。支持者は、「利権や既得権益から距離を置く政治」を求めています。
佃弘巳元市長の収賄事件と暴力団疑惑が影響
2期前の佃弘巳元市長は、ホテル跡地購入を巡る贈収賄事件で収賄罪に問われ、懲役2年・追徴金1300万円の実刑判決を受けました。
さらに、佃元市長は空手・キックボクシング団体「士道館」の最高顧問を務め、暴力団とのつながりが噂されていました。
こうした「利権・暴力団との癒着」疑惑が、市民の強い不信感を招き、「クリーンな市政」を掲げる田久保市長への支持を後押ししました。
新図書館建設計画への反感
田久保市長の前任者(小野達也氏)は、新図書館建設計画(約42億円)や大型公共事業を推進し、市民の間で「税金の使い方」への不信感を招きました。
さらに、市政の透明性不足や利権構造への疑念が強まり、「市民派」への支持が高まった背景があります。
この「過去の不信感」が、田久保市長の当選を後押ししたといえます。
新図書館建設計画(約42億円)に対する市民の不信感
「ハコモノ行政」への反発
計画は、旧温泉ホテル跡地に5階建ての図書館を建設する大型プロジェクトで、総工費は42億円とされていました。
しかし、市民の多くは「人口減少と高齢化が進む中で、巨額の公共事業は不要」と考え、ハコモノ行政への不満が噴出しました。
実際の建設費はさらに高額?
公表額は42億円でしたが、市内では「実際には54億円に膨れ上がることが分かっていたのに隠蔽されていた」という怪文書が出回り、コスト隠し疑惑が市民の不信感を増幅させました。
市議会と市民の対立
市議会の大多数は建設に賛成していましたが、市民は2025年5月の市長選で「新図書館建設中止」を公約に掲げた田久保市長を選出。
これは、市民が「議会多数派の意思」にNOを突きつけた象徴的な選挙結果でした。
田久保市長の公約とその後の混乱
田久保市長は就任直後に入札手続きを停止し、計画を白紙撤回する姿勢を示しました。
しかし、その後「温泉付き図書館構想」を打ち出し、「白紙撤回は何だったのか」という批判が再燃。市民の間で混乱と不信感が広がりました。
市民の声
「そんなに図書館はいらない」「本を読む人が減っているのに、なぜ巨額を投じるのか」という声が多く、生活実感と乖離した計画が市民の反発を招いたことは明らかです。
田久保市長側の戦略と政治的計算
延命のための議会解散
田久保市長は、不信任決議を受けて10日以内に「辞職」か「議会解散」を選択する必要があります。辞職すれば即座に失職しますが、議会を解散すれば市議選が終わるまで市長職を維持できるため、時間を稼ぎ、次の一手を打つ余地を確保できます。これは、地方自治法に基づく典型的な延命策です。
支持基盤の再構築と「田久保派」形成
議会解散後の市議選で、自らを支持する候補を擁立し、議会内に「田久保派」を形成する戦略が見えます。支援者への会合で「解散する」と明言し、複数の候補擁立を検討しているとの報道もあります。
ただし、再び不信任決議を阻止するには最低7人の支持議員が必要で、現状では困難と見られています。したがって、これは「延命+ワンチャンス狙い」の戦略といえます。
市民の不信感を逆手に取る計算
田久保市長は、「既存政治への不信感」を背景に当選しました。
- 42億円の新図書館建設計画に対する市民の反発
- 佃元市長の収賄事件と暴力団疑惑
これらが「クリーンな市政」を掲げる田久保市長の支持基盤を形成しました。今回の解散戦略も、「議会vs市長」という対立構図を強調し、市民の同情や支持を再び集める狙いがあります。
田久保市長の支持者の今後の動き
議会を解散する予定
田久保市長の支持者は、議会解散後に予定される市議会議員選挙で、積極的な動きを見せると予想されます。市長はすでに支援者を集めた会合で「議会を解散する」と明言し、その場で複数の候補者擁立を検討していることが報じられています。これは、議会内に「田久保派」を形成し、再び不信任決議が可決される事態を防ぐための布石です。
最低でも7人の支持議員を当選させる必要
ただし、現実的なハードルは高いといえます。不信任決議を阻止するには、最低でも7人の支持議員を当選させる必要がありますが、専門家や議会関係者は「実現は難しい」と指摘しています。市長側は、議会選挙と12月に予定される市長選を視野に入れた「二段構え」の戦略を描いているとされますが、資金面や組織力の不足が大きな課題です。市議選には約4500万円、市長選には約2000万円の費用がかかるとされ、資金調達の目途が立たなければ、戦略そのものが頓挫する可能性もあります。
「クリーンな市政」というイメージを維持できるか
一方で、市長支持者の中には「議会vs市長」という対立構図を市民に訴え、既存政治への不信感を再び喚起することで、選挙戦を有利に進めようとする動きも見られます。田久保市長が掲げる「クリーンな市政」というイメージを維持できるかどうかが、今後の支持者の動きに大きく影響するでしょう。
市民の声は届くのか?揺れる伊東市政の行方

伊東市政をめぐる混乱は、単なる学歴問題や議会との対立を超え、市民の信頼と地方自治のあり方を問う重大な局面に差し掛かっています。田久保市長が議会解散を選ぶのか、辞職を選ぶのか、その決断は市政の未来だけでなく、市民の政治参加意識にも大きな影響を与えるでしょう。今こそ、伊東市は「誰のための政治なのか」を問い直す時です。