区間配置がすべてを語る。2025年、頂点を狙う5強の布陣とは?

2025年11月2日に開催される全日本大学駅伝。箱根駅伝の前哨戦とも言われる全日本大学駅伝が、2025年も伊勢路を舞台に熱戦を繰り広げます。
箱根を目指す各大学にとって、ここでの戦いは現在地を示す重要な指標。特に、國學院大学・駒澤大学・青山学院大学・早稲田大学・中央大学の「5強」は、箱根でも上位を狙う実力校として注目を集めています。
本記事では、そんな5強の区間エントリーを徹底予想。各校の戦力分析とともに、勝負の分かれ目となる監督の戦略を紹介します。箱根駅伝を見据えた戦略が、ここに見えてくる——駅伝ファン必読の内容です。
2025年大会の注目ポイント
2025年の全日本大学駅伝は、箱根駅伝の前哨戦として、各大学の現在地を測る重要な舞台です。今年の大会は、以下のような点が特に注目されています。
國學院大学の本命化と連覇への挑戦
10月の出雲駅伝で連覇を果たした國學院大学は、今大会でも優勝候補筆頭。野中恒亨・上原琉翔・辻原輝ら上級生を中心に、安定感と勢いを兼ね備えた布陣で挑みます。箱根駅伝でも上位進出が期待されるだけに、ここでの走りは大きな意味を持ちます。
駒澤大学・青山学院大学・中央大学の巻き返し
出雲駅伝では序盤の出遅れが響いた駒澤・青学・中央の3校。特に駒澤大学は佐藤圭汰の復帰が見込まれ、全日本での本領発揮が期待されています。青学・中央も下級生の台頭が鍵となり、箱根に向けた戦力構築の場として注目されます。
早稲田大学・創価大学の台頭
出雲駅伝で2位に入った早稲田大学は、山口智規らを中心に勢いを持続できるかが焦点。創価大学も安定感のある走りで表彰台を狙える位置にあり、上位争いは例年以上に混戦模様です。
全国決戦としての位置づけ
全日本大学駅伝は、出雲・箱根と並ぶ「大学三大駅伝」のひとつ。全国8地区の代表校+学連選抜が集う真の全国大会であり、距離106.8km・8区間の中距離型レースです。スピードとスタミナの両方が求められ、10000mの走力が勝敗を左右します。
勝負の分かれ目は後半区間
例年通り、1〜3区で流れを作り、7〜8区の長距離区間で勝負が決まる展開が予想されます。特にエース級の選手が配置される終盤区間は、順位を大きく左右する鍵となります。
國學院大學の区間エントリー予想(2025年)
1区9.5km
高石樹(1年):高校駅伝1区3位、ルーキーながら安定感
2区11.1km
野中恒亨(3年):出雲駅伝で圧巻の走り、エース区間
3区11.9km
青木瑠郁(4年):前回2区、今回は前半の主要区間へ
4区11.8km
尾熊迅斗(2年):出雲でも好走、スピード型
5区12.4km
鼻野木悠翔(2年):出雲記録会で自己ベスト更新
6区12.8km
高山豪起(4年):安定感抜群、つなぎ区間でも稼げる
7区17.6km
辻原輝(3年):出雲4区区間新、長距離も強い
8区19.7km
上原琉翔(4年):前回もアンカー、経験豊富
國學院大學・前田康弘監督の戦略
「勢力図を変える」挑戦者としての意識
前田監督は、「國學院は長距離型で安定している」という既成概念を打ち破ることを目標に掲げています。箱根駅伝のような長距離だけでなく、出雲駅伝や全日本大学駅伝のような中距離型でも勝ち切ることで、新しい強豪像を築くことがミッションだと語っています。
一戦必勝主義
「一戦必勝」を合言葉に、出雲駅伝・全日本大学駅伝を連覇。箱根駅伝を見据えつつも、目の前のレースに全力を注ぐ姿勢がチームに浸透しています。選手のコンディションや勢いを最大限に活かすため、大会ごとに最適な布陣を組む柔軟性が特徴です。
つなぎ区間の強化と逆転戦略
全日本大学駅伝では、5区・6区という“つなぎ区間”での強さが勝因となりました。野中恒亨(2年)の区間賞、山本歩夢(4年)の区間新記録など、中盤での反撃力を重視する戦略が功を奏しました。これは箱根駅伝の「復路重視」にも通じる考え方です。
選手層の厚さを活かした戦術
「今年のチームはおつりがくるほど選手層が厚い」と語る前田監督。往路に主力を投入しても、復路に十分な戦力を残せる構成が可能で、バランス型のオーダーを組めるのが國學院の強みです。
精神面の育成と信頼関係
前田監督は、選手との関係性を「ノーガードで打ち合うような本音の対話」と表現。信頼をベースにしたコミュニケーションを重視し、選手の自主性と責任感を引き出しています。監督・主将・幹部の意思統一が、チームの一体感を生み出しています。
駒澤大学の区間エントリー予想
1区9.5km
帰山侑大(4年):箱根1区経験者、安定感重視
2区11.1km
佐藤圭汰(4年):エース復帰、過去区間記録保持者
3区11.9km
伊藤蒼唯(4年):出雲で好走、主要区間対応
4区11.8km
村上響(3年):スピード型、つなぎ区間で稼ぐ
5区12.4km
桑田駿介(2年):トラックで好調、スピード区間適性
6区12.8km
安原海晴(3年):出雲記録会で結果、安定感あり
7区17.6km
谷中晴(2年):長距離適性、勝負区間で起用
8区19.7km
山川拓馬(4年):2年連続区間賞、アンカーの絶対的存在
駒澤大学・大八木弘明総監督の戦略
「箱根から世界へ」——世界を見据えた育成方針
大八木監督は、大学駅伝の枠を超えた世界レベルの選手育成を目指しています。2023年からは「Ggoatプロジェクト」を立ち上げ、佐藤圭汰・篠原倖太朗らを中心に、世界陸上やオリンピックを視野に入れたトレーニングを展開しています。
Sチームによるエリート育成
駒澤大学では、トップ選手を集めた「Sチーム」を編成。ここでは、1万m28分台を基準に、質の高い練習を実施。佐藤圭汰や桑田駿介らはこのSチームで鍛えられ、駅伝だけでなくトラック競技でも結果を残しています。
攻めの布陣と勝負区間への集中
大八木監督の駅伝戦略は、序盤から主導権を握る攻めの布陣。特に2区・7区・8区などの主要区間にエース級を配置し、他校を突き放す展開を得意とします。2023年の全日本大学駅伝では、佐藤圭汰が2区で区間新記録を叩き出し、勝利の流れを作りました。
厳格な生活指導と精神面の鍛錬
「朝5時半起床・朝練・授業・夕練・22時消灯」という生活スタイルを徹底し、規律ある生活が強さを生むという信念のもと、学生の意識改革を行ってきました。かつては「叱る8割・褒める2割」の指導スタイルで知られ、選手の精神力を鍛えることにも注力していました。
三冠達成と有終の美
2022年には、出雲・全日本・箱根の三大駅伝で優勝し、史上5校目の三冠を達成。これを花道に監督職を退き、現在は総監督としてチームを支えています。選手たちの「監督を三冠で送り出したい」という思いが、チームの結束力を高めました。
青山学院大学の区間エントリー予想(2025年)
1区9.5km
小河原陽琉(2年):出雲1区6位、スピードと安定感あり
2区11.1km
飯田翔大(2年):エース候補、主要区間での経験を積ませる意図
3区11.9km
折田壮太(2年):出雲で苦戦も、前回区間5位の実績あり
4区11.8km
神邑亮佑(1年):出雲経験者、ルーキーながら安定した走り
5区12.4km
鳥井健太(3年):3年生の起用で経験値を積ませる狙い
6区12.8km
椙山一颯(1年):出雲記録会で好走、ルーキー起用区間
7区17.6km
黒田朝日(4年):エース区間、青学の伝統的配置
8区19.7km
塩出翔太(4年):出雲区間賞、アンカーとして信頼厚い
青山学院大学・原晋監督の戦略
「青山メソッド」による科学的育成
原監督は、過去の優勝チームの練習データをベースに、勝利の方程式=青山メソッドを構築しています。設定タイムや練習消化率を数値化し、再現性のある育成モデルを確立。これにより、毎年安定した戦力を維持し、箱根駅伝では8度の総合優勝を達成しています。
先手必勝型の区間配置
青学の駅伝戦略は「往路で主導権を握り、復路で守り切る」スタイル。2025年正月の箱根では、2区に黒田朝日、3区に鶴川正也、4区に太田蒼生と主力を惜しみなく投入。5区若林宏樹、6区野村昭夢が山の特殊区間で区間新記録を達成し、往路優勝を飾りました。
全員駅伝とチーム文化の構築
原監督は「全員駅伝」という理念を掲げ、選手だけでなく裏方スタッフや寮母まで含めたチームづくりを重視。2025年箱根では、寮母である妻・美穂さんも胴上げされるなど、頑張った人が報われる社会という哲学がチームに浸透しています。
採用と育成の戦略的設計
青学は「速い選手」より「チームに合う選手」を重視するポテンシャル採用型。原監督は選手の表情や声のトーンまで見てスカウトし、カルチャーに染まりやすい人材を育てることで、無名の高校生を全国区のスターに育て上げています。
作戦名とモチベーション設計
2025年全日本大学駅伝では「イーゴ大作戦」を掲げ、前半から流れを作ることを重視。鷲(イーグル)をモチーフに「疲れない走り」を目指すというユニークな作戦名で、選手のモチベーションを高めています。
早稲田大学の区間エントリー予想
1区9.5km
間瀬田純平(4年):3年連続で1区を担当、経験豊富
2区11.1km
山口智規(4年):出雲2区区間賞、エースとして信頼厚い
3区11.9km
鈴木琉胤(1年):出雲3区好走、スピードと勝負強さあり
4区11.8km
佐々木哲(1年):高校時代から注目、出雲でも安定した走り
5区12.4km
堀野正太(1年):出雲でも好走、走りやすい区間で起用
6区12.8km
吉倉ナヤブ直希(2年):出雲1区経験者、粘り強さが武器
7区17.6km
工藤慎作(3年):長距離適性あり、安定感重視の配置
8区19.7km
宮岡凜太(4年):最長区間での経験と持久力に期待
早稲田大学・相楽豊前監督の戦略
「個の強化」と「駅伝の勝利」の両立
相楽監督は、駅伝での勝利だけでなく、個人として日本選手権や世界大会で戦える選手の育成を重視してきました。駅伝三冠(出雲・全日本・箱根)を達成した後も、「日本選手権に誰も出られない年があったことが悔しかった」と語り、強い“個”を育てることが早稲田らしさだと考えています。
文武両道のチームづくり
早稲田大学の伝統を踏まえ、相楽監督は「競技者としてだけでなく、社会人としても通用する人材の育成」を目指しました。競技力だけでなく、人間力・知性・礼節を重視した指導方針は、早稲田らしい駅伝チームの根幹を形成しています。
若手育成と一般入試組の底上げ
進学校出身や一般入試組の選手を、28分台ランナーに育て上げるなど、素材を見極めて育てる力に定評があります。特に山口賢助(鶴丸高校出身)を28分20秒台のランナーに育てた例は、育成力の象徴です。
チーム戦略アドバイザーとしての役割
2022年以降は駅伝監督を退任し、花田勝彦監督とタッグを組んでチームを支える立場に。監督交代は「降格」ではなく、「2人で令和版の強くて魅力ある早稲田を作る」ための体制強化と位置づけられています。
駅伝とトラックの融合
駅伝だけでなく、トラック競技(特に10000m)でも結果を残す選手を育成。卒業生には太田智樹・清水歓太・中谷雄飛ら、日本選手権や実業団で活躍する選手が多数います。
中央大学の区間エントリー予想
1区9.5km
濵口大和(1年)
2区11.1km
並川颯太(2年)
3区11.9km
藤田大智(3年)
4区11.8km
七枝直(2年)
5区12.4km
溜池一太(4年)
6区12.8km
本間颯(3年)
7区17.6km
岡田開成(2年)
8区19.7km
吉居駿恭(4年)
中央大学・藤原正和監督の戦略
「スピード駅伝」への完全対応
藤原監督は、出雲駅伝や全日本大学駅伝のようなスピード型レースで勝ち切ることを重視しています。近年の中央は、1万m27分台ランナーを複数擁し、日本選手権5000mに7名出場するなど、トラック力を武器にしたチームづくりを徹底。狙いは序盤から攻める布陣で主導権を握り、後半で粘る展開。
岡田開成をどこで起用するか
岡田開成(2年)は、出雲駅伝2025で1区区間賞を獲得したスピードランナー。藤原監督は、全日本大学駅伝でも岡田を前半の勝負区間(1区または7区)に配置する可能性が高いです。
箱根駅伝への布石
藤原監督は、岡田を箱根駅伝の山下り(6区)候補として育成中。全日本で長距離区間を経験させることで、箱根に向けた適応力を高める狙いもある。選手層の薄さが課題です。前半から4〜6区の「つなぎ区間」で崩れるリスクが高い。
勝負は区間配置で決まる——監督の戦略が描く勝利の方程式
全日本大学駅伝2025は、区間配置と監督の戦略が勝敗を左右する究極の知恵比べです。國學院の勢い、駒澤の伝統、青学の革新、早稲田の復活、中央の挑戦——それぞれのチームが描くシナリオは、箱根駅伝への布石でもあります。伊勢路で繰り広げられる戦略と走力のドラマを、ぜひ見届けてください。
